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独立行政法人国立病院機構 まつもと医療センター

大腸がんの概要

○大腸がんは大腸の上皮に発生する代表的な悪性腫瘍で、盲腸からはじまって上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸の結腸がんと直腸がんをあわせた名称です。大腸はもともと隆起性病変(ポリープという)ができやすい臓器で、しかも、肛門に近い直腸やS状結腸にできやすい非腫瘍性(腫瘍でなく大きくなりにくい)の過形成性ポリープよりも、腫瘍性で良性の上皮性腫瘍としての腺腫性ポリープができやすい臓器とされています。また、非腫瘍と腫瘍の間にある鋸歯状腺腫やSSA/P(鋸歯状病変)といわれるものがあり、深部大腸(盲腸や上行結腸)ではがん化する可能性があるとされています。

大腸腫瘍のがん化

○大腸がんががん化するメカニズムは ①良性の大腸腺腫が大きくなって一部ががん化し、その後がんが大きくなっていく→腺腫-がんルート
②突然陥凹型のがんが生まれて大きくなる→de novo(デ・ノボ)がんルート
③深部大腸(盲腸・上行結腸など)に生じた腫瘍と非腫瘍の間の鋸歯状病変にがんが生まれてがんが大きくなる→SSA/P(鋸歯状病変)ルート の3つのルートが考えられています。

大腸がんの進展

○ 大腸がんは、大腸粘膜内から発生し、大腸の5層構造と言われる①粘膜層→②粘膜下層→③固有筋層→④漿膜下層→⑤漿膜というように 大腸の外側へ向かって進展(=浸潤という)していきます。
○大腸がんの進展形式からの分類で浸潤が、①粘膜→粘膜下層までの2層までに留まっているものを早期大腸がんといい(リンパ節転移のないもの)、②浸潤が3層目の固有筋層以深に至ったものを進行大腸がんといいます。
○また、大腸がんには細胞の集まった組織の形の違いにより、①細胞同士が集合する傾向のある分化型がんと、②バラバラになる性質のある未分化や低分化がんとに分かれ、未分化や低分化ながんほど、浸潤や発育が早く予後が悪いと言われていますが、胃がんに比べてほとんどが分化型がんで、未分化がんはまれとされています。ただし、リンパ節や遠いところの肝臓や肺などに遠隔転移しやすく、早期のがんのうちに治療が必要です。

大腸がん統計について

○大腸がんは人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2017年)1)によると2017年の統計では、男性で死亡原因の3位、女性で1位、男女あわせて2位になっています。乳がんなどの治療が発達してきているがんに比べて、食生活の欧米化や、便潜血スクリーニング検査・大腸内視鏡の発展により発見率が高くなってきたこともあり最近増加してきています。
○ 一般的に早期大腸がんはがんの深達度(深さ)(T因子)とリンパ節転移(N因子)・遠隔転移(M因子)(肝臓や遠いところのリンパ節・肺などに転移)によってStage(病期)が0(病変が粘膜内)・Ⅰ(がんの深達度にかかわらずリンパ節転移のないもの)・Ⅱ(がんが固有筋層まで、漿膜にいっていてもリンパ節転移のないもの)・Ⅲ(がんが漿膜層までで、リンパ節の転移あり)・Ⅳ(遠隔転移あり)に分かれておりの5年生存率はそれぞれStage 0: 約100%, Ⅰ: 約98%, Ⅱ: 約85%, Ⅲ: 約75%, Ⅳ: 約15%とリンパ節転移と遠隔転移があるなしで治療成績に差があります2)。 最近では分子標的薬や化学療法の発達によりStageⅣでも治療成績の向上がみられてきています。

大腸がんの危険因子について

○ 大腸がんになる危険因子としては、 ①高動物性脂肪塩分食品の摂取や緑黄色野菜の摂取不足・喫煙等のライフスタイル
②大腸腺腫の有無
③ほかの部位のがんとの合併症例
④大腸ポリープや大腸がんなどの家族歴
などがあります。

大腸がんの症状について

○ 早期大腸がんの多くは無症状であり、がんの進展や大きくなるにしたがって症状が出てきます。一般的には腹痛・血便・便秘・便が細いなどの便通異常などを症状として見つかります。 最近では便潜血反応の集団検診や病院での検査などで便潜血反応や貧血で精密検査を受けて発見される例が多くなってきています。 また、大腸ポリープの経過観察の間に見つかる例も多くあります。 血便や便秘などを一般的な痔や便通異常と思わずに、何か症状があったら一度大腸内視鏡検査をうけてポリープなどがないかどうかを確認しましょう。

大腸がんの治療法

○ 早期大腸がんのうち分化型がんでは、がんの大きさが 2cm 以下で(病変内 に潰瘍がなく)、がんが第1層の粘膜内にとどまり、大腸潰瘍の痕がなく、CTなどでリンパ節転移がないことが確認された場合は内視鏡的治療が適用となります。(病気によっては対象を拡大した病変として内視鏡的に切除することもあります)
○大腸の近くのリンパ節転移がある早期大腸がんや、粘膜より下層の浸潤のある早期大腸がん、進行がんについては外科療法がよいとされています。
○ 進行大腸がんについては、手術の前や後に化学療法が併用され、病変を小さくすることがあります。 ○直腸の腹膜翻転部(直腸の腹膜のついている部分)より肛門側にある場合のみ人工肛門を作製しなければいけないことがあります。また、緊急で腸閉塞を起こした大腸がんは一時的に人工肛門がつけられる場合があるので、注意が必要です。
○内視鏡的切除の方法としては
①内視鏡の鉗子孔からリング状の電気メス(スネア)を出して、病変を局所注射で盛り上げて絞り上げながら高周波電流で焼いてとってしまう内視鏡的粘膜切除術(EMR)と、
②小さな電気メスで病変の周囲を切って、その後病変の粘膜下を剥離して全体を切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。 後者のESDに関しては潰瘍がなければ大きさに関係なく切除できる利点がありますが、大きくなれば、手技が難しく外科手術並みに長時間に及ぶこともあり、出血や穿孔で緊急外科手術を必要とする場合があります。発展途上の手技でもあり、これからの安全性を確立したした内視鏡手術が望まれます。
○外科的切除としては、病変の部位により
① 盲腸や小腸との境界の回盲弁の近くなら回盲部切除、上行結腸から右側の横行結腸に病変がある場合は右半結腸切除、
② 横行結腸の真ん中にあれば結腸部分切除か、横行結腸切除、
③ 横行結腸の左か、下行結腸にあれば左半結腸切除、
④ S状結腸にあればS状結腸切除、
⑤ 直腸の上部にあれば直腸前方切除
⑥ 直腸の下部にあれば人工肛門を作成する直腸切除が一般的に行われます。
ただし、リンパ節病変がどこにあるかとか、化学療法を先行させて病変を小さくするなどしたりしたときは術式が変更になることがあります。

参考文献

1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」 人口動態統計によるがん死亡データ
2)全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率(2001-2003年)。

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